技術向上のために指導者も選手も知っておいてほしい基本的な事
このご時世、自分の気になる事をYouTubeやGoogleなどインターネットで調べると技術についてや練習方法といった答えが簡単に出てくると思います。しかし簡単に答えが出てくる反面、情報量があまりにも多くその情報が正しいか否か判断が難しい事も多々あります。今回は情報過多なこの時代だからこそ、人から得たアドバイスや指導、情報をどのように取り入れていくべきか、またどのように教えていくべきか、その過程についてご説明したいと思います。
現代と過去の指導方法の違い、情報量が多いがゆえの大変さ
現代では野球の指導も変わりつつあり、以前はコーチや監督から、言葉少なく端的に伝え教えられた事をいかに自分に取り入れていくかどうかが野球をうまくなるために必要な事でした。(自分にはまらない場合はある意味分かっている振り、やっている振りをして受け流すという事も必要でした。)
しかしこのご時世、教え込む、教育するという概念は段々薄まりつつあるため、様々なアドバイス、提案、情報から自分自身の責任のうえで自分で判断しなければならなく自由であると共に自己責任を問われるある意味厳しい時代になっているのかなと思います。 このような時代背景から、自分が得た情報を自分の判断で取捨選択をしなければならない世の中で、またその情報が正しいか否か自分に合うかどうかを実践してみて確認する必要があり、さらにその情報の本質を捉える力、自身の読解力や受信力も問われ、様々な教えやアドバイスを自分なりの解釈と感覚として取り入れることが大切になります。
実際に押さえておくべきポイント、実践編
こういった事を言葉で言うのは簡単だと思いますが理屈で分かっても中々実践するのは難しいと思います。私がお話した事をすでに理屈では理解されている方も多いと思いますし、そのうえで試行錯誤され選手にどのように指導すれば良いか迷っている方もいらっしゃると思います。
今回は現代野球において、どのような部分に注意して技術指導をしたり、選手はそれを受け取ればいいのか、その内容と押さえておく視点、考え方について事例と共にご説明させて頂きたいと思います。
読売ジャイアンツ桑田真澄さんのお話
この事から人の感覚、実際にやっている動作、そして人へ伝える時の言葉にはそれぞれズレが生じやすいという事が言えると桑田さんお話をされていました。実際に同じ動作をしても、人の感覚はそれぞれですし、人へ伝える言葉選びも多種多様であるという事だと思います。桑田さんはその事を理解したうえで選手に技術指導しなければならないと説いていらっしゃいました。
そして指導者自身、自分はどのような感覚でプレー、実践していてその感覚をどのような言葉で伝える事が適切なのか、そしてその言葉は選手にどのように伝わり、選手自身どのような感覚で実践しているのか、以上の過程を理解したうえでコミュニケーションにて伝達しなければならないという事が言えると思います。そういった過程を飛ばしてしまう事で指導者と選手の間に感覚のずれが生じてしまうという事が言えるでしょう。
ダウンスイングは弊害?よくある認識と感覚のずれ
よくある間違いとして最近よくやり玉にあげられるものがダウンスイングだと思います。昔の選手はダウンスイングしか許されなかったとよく言われています。
王貞治さんにとってのダウンスイングとは
過去に王貞治選手が師匠である荒川博バッティングコーチと畳部屋で素振りをする有名なシーンがあると思います。その時の映像を見るとスイング軌道を見ても極端なダウンスイングで素振りをされている事が分かると思います。この練習はヘッドが下がらないようにという意識付けが目的だと本人もお話されていましたが、その意識付けが実り実際に打席に入ると身体の後ろから綺麗に弧を描くようスイングをされており、もちろんダウンスイングとは言い難いですがきれいなレベルスイングでヘッドも落ちる事もありません。王さんはダウンスイングを意識しないとバットが遠回りしどうしてもヘッドが下がるとお話をされていました。
野村克也さんが見た川上哲治さんのアッパースイング(ゴルフスイング)
また野村克也さんの著書に書かれていますが、当時プロ入り2年目の野村克也さんが55年オープン戦にて打撃の神様である川上哲治さんの練習風景をみてこのように述べています。(著者:野村克也「野村克也野球論集成」徳間書店,2017.4.30,P273~P274 お手本の打者を観察し、自分に生かす)
川上さんは、レベルスイングの代表的なバッターだったのだが、まるでゴルフスイングのような素振りを繰り返していたのだ。
「なぜあんなスイングをするのだろう。試合とはまったく違うじゃないか……」。不思議に思いながら、川上さんの打撃練習に目を奪われた。だが、試合になれば、自分がお手本にしたかったレベルスイングで快音を発していた。
頭の中が疑問だらけになりながら、寮で川上さんと同じ練習をした。地面をかすめるようにバットを走らせてみた。まねて、自分の体で感じた。少しのスイングだけでは、最初はまるで理由がわからなかった、なぜだ? と頭で考えながら、何度も何度もスイングを続け、思い当たった。
「右足(軸足)から左足へ、スムーズに体重移動するためではないのか」
〔中略〕
それに気づいてからは、川上式ゴルフスイングで素振りをしてから、本格的に振り始めるようにした。プロ2年目で「なぜもっとうまく打てないのだろう」と悩んでいた私は、目の前が開けたように感じた。
かつて若かりし頃の野村克也さんは川上哲治さんのゴルフスイングのような素振り、いわゆる縦振りという素振り(イチロー選手のルーティンとして有名ですよね)になりますが、この素振りを見て野村克也さんはヒントを得たという事でした。
このように王貞治さん、川上哲治さんのエピソードを見ると、現代では昔の人のダウンスイングをしろと徹底した事が今の野球には弊害になっているという認識が広まっていますが、先人達の言葉や過去の習慣を見てみると、伝え方、意識付けの仕方は現代とは違えど基本となる部分、動作は今と変わらないという事が分かると思います。イチロー選手の有名なルーティンを半世紀前から川上哲治さんや野村克也さんが実践していたとは驚きですよね。(これはまた別テーマですがダウンスイングでゴロを徹底して足を生かすという考え方についてはまた今度掘り下げたいと思います。)
間違った形でダウンスイング徹底論が広まった理由
そのような事が今後起こり得ないようにするため、指導者は言葉と感覚と実践にズレがある事を理解すると共に、選手自身もその事を理解したうえで指導者は何を伝えたいのか、その本質を見抜く能力が必要になると思います。
元横浜ベイスターズの佐伯貴弘さんの解説
佐伯貴弘選手が今回お話したことをとても分かりやすく解説してくれています。テーマはアッパースイングについてですが、終盤に技術指導について注意喚起とメッセージを送られていますのでぜひ見てみてください。
まとめ
選手のタイプを知る。センスの有り無しで判断しない
また教えてもらった事を知識や感覚として取り入れ再現できるスピード感を指す事で使われがちな表現方法が俗に言うセンスという言葉になります。
よくセンスがある、センスがないと選手を判断してしまう傾向はありますが、選手にすぐ実践する感覚肌なタイプも入れば、実践や試行を繰り返しじっくり取り入れるタイプの選手もいます。人それぞれタイプは違いますので、そのスピードに拘らず選手がいかに自分の感覚としてしっくりきて実践してもらうのか、何が自分の感覚に合うのか考え選んでもらうという事が必要になります。 もちろん考える能力や発想がない選手にはやはり指導という事は必要にはなってくると思います。
ここでお話しているのは何でもかんでも選手に責任を負わせて自己責任で選択を促すという事でもなければ、すべてを選手に委ねるという事でもありません。ただあくまでも最初には基本となる指導やアドバイスがあってそれを選手がいかに活かすことができるのか選択の余地を与える事、また指導者といかに共有検討して技術向上が図れるのか、そういった部分がとても大切になると思います。
そして選手たちは、以上の事を理解したうえで先人達の教えを真摯に受け止め自分なりに考え実践していく事が必要になると思います。
おまけ
また余談ですが、小学生や野球を始めた子どもたちは、経験が浅いため自分で考える力はまだありません。その分大人の言う事はすべてを受け入れてしまうため細かい技術指導をし過ぎたり、難しい言葉で伝え過ぎると混乱してしまいます。また強制することで委縮してしまったり、動きがぎこちなくなってしまう恐れがあるため投げる時は肘は肩より下げないとか、打席ではベルトの高さに来たボールは必ず思い切り振るとか基本となる必要最低限の情報を与えるだけで良いと思います。 野球のルーツは球遊びです。まずは思い切り振る、投げる、走る事を基本として、遊びの中でどうやったら打てるのか、速い球を投げられるのか、そして勝てるのか、そういった事を楽しみながら子供なりに知恵を絞るという事が大切だと思います。遊び方を知るという事は野球以外の場面でも発想という形でとても活きることになるでしょう。
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