『解剖』スイーパーの理論と投げ方 大谷翔平投手の新しい武器 世界に通用する魔球 

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『解剖』スイーパーの理論と投げ方 大谷翔平投手の新しい武器 世界に通用する魔球 

 スイーパーは近年メジャーリーグで有効な球種として使用するピッチャーが多く見られています。変化の特徴として、沈まない横に大きく変化するスライダー方向の球種であり、従来のスライダーのように下に沈む軌道を描かず、今までにない変化軌道のため、バッターは対応できず、非常に有効な球種して定着しています。今回はスイーパーの特徴、使用方法と投げ方について考察したいと思います。

大谷翔平投手のスイーパー

 スイーパーは、大谷翔平投手が2022年から多用するようになり、日本球界にもその存在を知らせるきっかけにもなりました。元々、大谷翔平投手は160キロを超えるフォーシームとスピリット系の落ちるボールを使用する、速さと高低差を活かした投球スタイルをしていました。しかし、大谷投手はフォーシームの回転効率が特別突出している訳ではなく、浮き上がるようなストレートとは反対の比較的沈みやすいため、バッターからすると球速の割には球の速さを感じづらいピッチャーでありました。

 しかし、2022年からはスイーパーと言われる、沈まない横の変化の大きいスライダーを多投するようになり、投手成績も2021年より向上する事ができ、ピッチングスタイルの変化にも大きく影響を及ぼしました。

 
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スイーパーの性質と変化量

 それではスイーパーは実際にどのような性質のボールで、変化をどのように起こすボールなのでしょうか。実際のデータを分析したいと思います。

 スイーパーは、その定義は様々でありますが、一般的に128キロ以上の球速で、少なくとも25cm以上横に曲がり、縦の変化が-10cm以上(10cm以上沈まない)のボールと定義されています。球種によりますが、実際に横に変化するスライダー、スラーブ系統のボールと比べると落下の高低差は大きく異なります。

 指標の内訳を見るとWhiff%(空振り率)は36.0%(MLB平均36.4%)、O-Swing%(ボール球スイング率)は32.7%(MLB平均32.0%)と傑出して高いというわけではなく、優れているのはxwOBAcon(打球失点リスク)の低さでMLB平均の.335と比べ.315と20ポイント低い。打球のリスクを減らすことで総合的な価値を大きく減らした形となりました。その要因としては、ボールが沈まない事でゴロ率が下がり、ポップフライ率が高くなり、結果的にBIBAPが下がる事が挙げられています。

 実際に大谷投手は、スイーパーのような沈まないボールとスラーブ系の沈むスライダー、またはカット系の変化の小さいスライダーなど、数種類のスライダーを投げ分け、カウント、場面に応じて、球種を選択し、有効な球種として活用し、成績を良化させることができました。

スイーパーの握りと縫い目の使い方

 ドジャースのブレイク・トレイネンは2020年までは横変化の小さなスライダーを投げていましたが、2021年は一転して横変化の非常に大きなスライダーにモデルチェンジしました。トレイネンの大きな変化として、その握りの違いがあります。

 トレイネン投手の実際に握りの変化を見てみると、握りをツーシームグリップに変更していることがわかりますが、なぜツーシームグリップはボールの変化を増やす効果があるのでしょうか。
その要因として、握りをツーシームに変えることで縫い目の効果が発揮されたのではないかと考えられています。

シーム・シフト・ウェイクとツーシームの力

 ボールの変化はこれまでボールの回転と回転軸で決まると考えられてきました。しかし、ここ最近は縫い目の効果を指摘され、シーム・シフト・ウェイクと呼ばれ注目されています。

 シーム・シフト・ウェイク(SSW)とは、「縫い目が変化量に及ぼす影響」のことです。ボールを投げたとき、空気にぶつかると周りに気流に縫い目によって盛り上がった部分に乱れた気流が発生し、縫い目のない滑らかな面には滑らかな気流が発生します。この事で乱れた気流は滑らかな気流より長くボールに付着しこの気流の差がボールを変化させると考えられています。

 今までは、ボールに変化をもたらす要因として、マグヌス効果しか考慮されておらず、ボールの回転軸と回転方向だけが、ボールの変化をもたらすと考えられてきました。しかし、近年、ホークアイの導入により、実際の回転軸が計測された事により、ボールの縫い目がどれだけ、ボールの変化に影響があるのか解明されてきました。

 この事でスイーパーは縫い目の向きの影響を利用する球種で、縫い目の力によって横の動きと縦の動きを得ている球種だということがわかっています。

ホークアイの導入で実際の回転軸、回転方向が分かった事により、縫い目の力が作用する事で、同じ回転やスピン量でも変化量と変化方向が違うことが分かりました。つまり、同じ性質の回転のボールを投げても縫い目の向きにより、ボールの軌道と変化量を変えることは可能となり、その性質を利用したボールがスイーパーとなります。

回転効率と回転軸 大谷翔平投手の例

 実際に大谷翔平投手のストレートは、綺麗なバックスピンのストレートとは異なり、ボールにジャイロ成分とサイドスピンが入り、回転効率が多少低い傾向にありました。また、回転数も球速に比べて、回転数が平均的であるため、マグヌス効果が得られず、ボールが沈むような軌道を描く傾向がありましたが、このような投手はリリース時に指が回外する傾向にあります。

 綺麗なバックスピンを投げる投手はリリース時に逆に指が回内し、中指にボールが引っかかる事でボールに縦回転が加わります。逆に指が回外することで、人差し指にボールが引っ掛かり、回転軸がずれ、ジャイロ回転と再度スピンが加わる結果となります。

 MLB全体の傾向を見ても、ストレートの回転効率が85%を下回る投手のうち30%は、スライダーの横変化が11インチ(約28cm)を超えており、ストレートの回転効率が95%を上回る投手のうち6%は、スライダーの横変化が11インチ(約28cm)を超えていました。

 この事からストレートの回転効率の低い選手の方がスイーパーを投げやすいということを示しており、速球の回転効率が低い選手は回外に対して優れた感覚を持っているため、簡単にブレーキングボールを会得できるということも分かっています。

スイーパーの投げ方

 それでは実際にはスイーパーはどのような投げ方をしているのでしょうか。先ほどお話ししたように、スイーパーはツーシームを利用し、ボールの縫い目を下から上かつ、横にスライドするように、シーム・シフト・ウェイクの力を利用し、ボールにさらに変化を加えます。

 そのため、従来のスライダーより腕を少し下から出し、ボールを四分割した場合、右下に力をかけ、カットボールやストレートを投げる時以上にボールを長く持ち、リリースの瞬間まで指先がボールから離れないようにしながら、リリースでは右下から左上への斜め回転をかけていくことが必要となります。その際に握りは、指をツーシームに掛け、シーム・シフト・ウェイクの力を利用し、普通のスライダーの握りより、実際に浮き上がる軌道を描く事ができます。

 また、ボールを大きく変化させるためには、ボールの裏側にいかに指を回し、ボールを長く持ち事が大切だという理論もありますが、投手によっては最後に人差し指でボールを切るような感覚でスライダーを投げている場合もあります。

 過去に大きい高速スライダーを投げていた伊藤智仁投手は、自身のスライダーの投げ方を大谷翔平投手のようにツーシームの握りで最後は人差し指でボールを切るように投げている事を披露されていました。他にも川上憲伸投手のカットボールや前田健太投手や伊藤大海投手もスライダーを人差し指で切っているという事が分かっていますが、この投げ方の共通点として、リリース時に腕を遠回りする事なく、回外と回内の感覚をアジャストしている事が挙げられます。

 それは先ほどお話ししたように回外する投手程、ストレートの回転効率が下がる反面、サイドスピンを掛けやすい事で横に大きいスライダーを投げやすい側面がある事と共通しており、その投げ方で縫い目の力を利用する事で、実際の回転効率、スピン量、回転軸よりさらに大きい変化を起こす事が可能となります。

 また、大谷翔平投手やダルビッシュ投手はスイーパーを投げる際に、腕の位置も他の球種より、若干下から出している事が分かっていますが、そういった投球フォームだと腕や肘に負担がかかる他、投げ方で球種が分かってしまう側面があるため、最近はリリース時に手首を寝かせる事で対応している場面も見られています。

まとめ

 今回は、スイーパーの特徴と投げ方のお話をしましたが、今回の内容は、どの球種においても対応できる内容です。ボールを変化させるためには、回転軸と回転方向が重要となり、自分のボールの性質を知り、どのようなボールが自分に順応しやすいのか試行し、得意な変化球を見つけることがとても重要になります。この事を踏まえて、あたらしい球種を発見することはまた新たな野球の楽しみ方になると思いますので、ぜひ参考にして頂けたらと思います。

 

前回 ジャイロカッターとスイーパーの違い

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