藤浪晋太郎とショートアーム 復活のために必要な要素 藤川球児さんの教えから学ぶ事
藤浪晋太郎投手は1年目からローテーションに入り、10勝を上げるなど活躍を見せ、将来の日本のエースとして期待の大きい投手でした。しかし2016年付近からはコントロールが安定せず、右打者頭付近にシュート回転で抜けるボールが目立ち、成績も低迷しています。大阪桐蔭時代から大谷翔平投手のライバルとして注目を集め、160キロを超えるストレートを投げる藤浪晋太郎投手がなぜここまで、低迷した状態でいるのか、不調な状態が続いているのか、その要因を分析したいと思います。
前回 ショートアームについて
藤浪晋太郎投手のストレートは何故あんなに抜けてしまうのか
藤浪晋太郎投手は体が大きく、手足も長く、テイクバックも大きいピッチングフォームのため、ボールのコントロールが難しい要因を複数持ち合わせています。
また体の回転軸が横回転のため、ボールが抜けてしまった時に縦からさらに横に抜けてしまう事が増えてしまうため、右打者の頭付近にボールが向かってしまう結果になってしまいます。
元々、藤浪投手のような高身長タイプの投手はコントロールが安定しない傾向にありますが、ダイナミックかつ横回転軸の投球フォームにより、コントロールの不安定さに拍車がかかってしまい、自分の癖や体の使い方をうまく修正、コントロールできないまま時が流れてしまっています。
出典:https://column.sp.baseball.findfriends.jp/?pid=column_detail_amp&id=097-20200823-01
コントロールが安定しない=リリースが安定しない
コントロールが安定しないという事はリリースが安定しないという事とほぼ同義と言っても良いですが、リリースを安定させるためにはピッチングの始動からテイクバックの作り方、正しい体重移動と回転が全てバランス良く成り立って、その過程を通り結果的にリリースが安定します。そのためコントロールを安定させるためにリリースだけを意識すれば良いというわけではないという事が言えます。
藤浪投手は体の大きさと手足の長さにより、元々リリースが安定せず、コントロールがアバウトの投球スタイルをしていましたが、その中でここ数年は体の回転軸が横回転になり、リリースの際に手首が横に寝てしまう癖も目立っています。要するにリリースだけの問題ではなく、体の全体の使い方に課題があると言えます。
スライダー投手が故、手首が寝てしまう。
リリースの際に手首が横に寝てしまう原因として、カットボールやスライダーの投げ方にあるとされています。
藤浪投手は主にスライダー系とフォーク系の変化球を武器にして、空振り率がとても高い投手でした。しかし、最近はスライダーを投げる際に曲げようとする意識が大きいせいか手首を捻るようにストレートとは違う腕の振り方になっていました。このスライダーの投げ方がストレートに影響が生まれ、ストレートを投げる時もリリース時に手首が寝てしまうクセが目立つようになりました。
この癖を改善するために2020年に山本昌さんが春季キャンプに臨時コーチとして参加された時に藤浪投手にシュート回転にボールを抜くチェンジアップの練習を提案しました。スライダー方向とは逆の変化のボールを練習する事でリリースの癖を矯正する事を目的として練習に取り組み一時期は癖を修正する事が出来ましたが、試合中にスライダーを使う事で、手首が寝てしまう癖が再発してしまい、結局試合中には癖を修正する事が出来ず、自滅してしまう場面が多く見られてしまいました。
藤川球児の助言
藤浪投手の横軸の体の使い方について、藤川球児さんが指摘されていました。藤浪投手はオーバースローですが、腕の振りとは異なり体の回転軸が横になっています。オーバースローの投手は体を縦に使う事が必須となりますが、藤浪投手のこのアンバランスさがコントロールの不安定さに拍車をかけてしまっています。体を縦に使うピッチングフォームは体を縦方向に傾ける事で軸に角度が付き、それに伴い腕の振りにも角度付き、体も腕も上から振り下ろすようなピッチングフォームになります。しかし藤浪投手は体の回転に角度が付かない状態で、無理に腕の振りを上から投げ下ろそうとするため、体は横、腕は縦という結果的にアンバランスなピッチングフォームになってしまっています。
この癖については藤川球児さんも藤浪投手も修正を図ろうとしており、試合中も癖が露呈しないよう試行錯誤しながらピッチングをしている様子が伺えます。
藤浪晋太郎投手とショートアーム
2018年春季キャンプにて藤浪投手はリリースの安定を図るため、トップを小さく作るいわゆるショートアームに似たピッチングフォームへの変更に取り組んでいました。しかし、結果的にそのピッチングフォームは定着はせず、元のダイナミックなフォームに戻しましたが、なぜ藤浪投手にはテイクバックの小さいフォームははまらなかったのでしょうか。
その要因として、藤浪投手の従来のピッチングフォームとあまりにも腕の軌道が違うため、ショートアームの長所を活かしきれなかった点と正しいトップを安定して作れなかった事が考えられます。
ピッチング動作において、トップを作るまでの過程で腕の振りは内旋、外旋の運動をしながら弧を描くように腕を回し、トップの位置まで持っていきます。
ショートアームはこの動作を小さくしたもので、よくある間違いとして、このトップまでの回す動作を全てカットして、直線的にトップまで腕を持ってくると考えてしまう人が多い印象を受けます。このような動作をしてしまうと、下半身と腕の振りのタイミングが合わず、結果トップの位置で腕を止めて下半身が追いついてくるまで、静の状態で待ち続けてしまいます。
その事でボールに十分に下半身の力が伝わらず、手投げになってしまい肩肘への負担も大きくなってしまいます。野球の動作で動きを止めて、2段構えで予備動作を行うという事は良い事ではありません。一度動きを止めてしまう事で、力みにも繋がりますし、上半身と下半身のタイミングのズレを結局誤魔化して投げる動作が入り込んでしまうため、安定かつ再現性の高いフォームにはならなくなってしまいます。
ショートアームの正しい活用方法として、トップを作るまでの腕を回す動作を省くのではなく、あくまでも小さく、丁寧にという意識が鉄則になります。また腕を背中側に入れてしまう投手はなるべく腕の回転を体の前で完結させるという意識が必要となります。
藤浪投手の2018年のピッチングフォームを見ると、トップをしっかり作ろうとする意識はとても感じられますが、結局背中側に腕を入れてしまう動作は変わらず、また大きな課題である横回転の体の軸はそのままのため、あまり効果的なフォーム変更とはならなかったのではないかと思います。
大谷翔平選手の2021年後半からピッチングフォームを少し変更しましたが、ショートアームのように極端な小ささではありませんが、トップまでの腕の回し方が幾分か小さくなり背中側に引っ張られる事なく体の前で完結するようになりました。この事でコントロールが安定し、少ない球数でイニングを稼ぐ事ができました。
大谷翔平投手のピッチングの変化
もちろんショートアームのように小さいピッチングフォームではなくても、腕を大きく使ってトップを安定させる事が出来る投手は、そのフォームが体に合っていると言えると思いますが、フォームが安定せず制球難に悩まれている投手は一度、トップまでの腕の振り方と大きさを一度見直してみる事は必要かもしれません。しかし、あくまでも腕の内旋、外旋運動をしっかり理解し、基本的な動作を身につけてから、自分に合った腕の振りの大きさを見つける事が大切になると思います。
以上のことをまとめると、藤浪投手の低迷の要因として、体が横回転を修正仕切れない事、元々スライダー投手のためストレートも手首が寝てしまう事、体が大きく手足が長いためトップの作り方と腕の回し方が安定しない事、そしてこのようなウィークポイントがある中、自分の感覚に合致したピッチングフォームと修正方法が見つからないため、感覚と技術が安定しない事があると思います。
しかし「言うは易し行うは難し」という言葉がある通り、本人にしか分からない感覚や難しさがあります。今回お話しした事は藤川球児さんや山本昌さんの解説を元にショートアームのピッチングフォームというものに当てはめて考察したものでしたが、一つの視点に過ぎません。今後の藤浪投手の取り組みとピッチングフォームの変化に着目して、プロ野球を見る事もまた一つの楽しみになるのではないでしょうか。
ピッチングについて
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