野球をつまらなくする考え方② 近代野球の傾向とは 送りバントの有効性と長打以外の攻撃パターン

データ分析

近代野球の傾向とは 送りバントの有効性と長打以外の攻撃パターン

野球をつまらなくする考え方①で前述した通り、現代の野球は長打、ホームラン、四球、三振に焦点が置かれ、盗塁、バント、エンドランといった作戦面での工夫、フィールド内で行われるプレイが蔑ろになっている傾向にあります。このような作戦面は得点の効率を下げ、勝利の可能性を低くすると結論付けられ、特に年間通して戦う、プロ野球、メジャーリーグのようなリーグ性の野球ではこの考え方がベースになりつつあります。しかしこの考えが野球を単調かつシンプルなものにしている事も事実で野球人気の低下を引き起こす要素を多く含んでいます。

日本の野球は従来、大学野球、甲子園大会などの学生野球が主流、人気となり、プロ野球選手もいずれかの道を通りプロ入りしています。学生野球は主にトーナメント戦が主流となり、大学野球のリーグ戦も春、秋の一定期間の短期決戦がほとんどです。社会人野球に至っても都市対抗野球はトーナメント戦であり、一発勝負、勝ち抜き戦で優勝者を決めるルールの中、チーム、選手は戦っています。

この事から確実に1点を取りに行くための、バントやエンドラン、盗塁といった緻密な野球が主流となっています。セイバーメトリクスは長期目線で見た時の確率の収束、統計といった要素が大きく、1回勝負という視点で野球というスポーツを分析はしていません。もちろん応用が効く部分もあり、セイバーが全く短期決戦に通用しないかというとそうではありませんが、1回勝負、短期決戦の時はまた違った作戦、考え方が必要になるということが適切な捉え方になります。要するにセイバーメトリクスは選手の能力、特性を分析し、戦力差がそのままゲームの結果に直結するという考え方で、長いリーグを戦う時は、根本である選手、チームの能力、戦力を高め、足りない部分は補強を行い、勝つ確率を高めようという考え方になります。

前述した通り、この考え方は負けたら終わりの一発勝負、短期決戦には向いておらず、戦力差を埋めるための作戦や、確実に1点を取る戦略が必要となります。日本で学生野球を経験した指導者、選手達はこの考え方が身に付いており、プロの世界でもあまり色褪せる事なく、バント、盗塁、エンドランといった作戦にも抵抗なく、円滑に実行する事ができます。

しかし、日本のプロ野球もメジャーリーグと同様、年間を通してのリーグ戦であるため、目先の得点、1勝に拘り過ぎる事も得策ではないという事が言えます。効率を重視し、勝率を高めるという考え方が大切になり、セイバーメトリクスの考え方を取り入れるという事も必要となりますが、果たして、従来の日本の野球のようなバント、盗塁、エンドランのようなフィールド内のインプレーにおいての作戦は得点、勝利のために有効ではないのか、ホームラン、四球、三振という結果と共存するということは出来ないのか、セイバーメトリクスと従来の作戦面の関連性と重要性について考察したいと思います。 

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野球をつまらなくする考え方① 近代野球の傾向とは セイバーメトリクスの活用
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送りバントの有用性

今までの野球界ではランナー1塁の場面は送りバントをして走者を2塁に送るという作戦がセオリーとして考えられてきました。しかし、得点期待値を考えるとノーアウト、1アウト共にランナー1塁の場面での送りバントは、得点期待値を下げてしまっている事が統計の結果として出ています。野球というスポーツはいかに点数を多く取り、失点を最小限に抑えるかが勝敗に直結します。得点期待値とは場面によって、どのくらい点数が取れるか、その度合いを表したものですが、前述した通り、日本の野球界では、短期決戦、トーナメント制度などの一発勝負で勝者を決める事から、多くの点数を取るのではなく確実に1点をもぎ取るという考えが浸透しています。そのため、得点期待値を重視するのではなく、得点確率を重視し、競った場面で点数を確実に取るという作戦を優先する傾向にあります。しかし、ノーアウト、ワンアウト共にランナー1塁の場面で送りバントを成功させても、結果得点確率も低下してしまうという結果が出ています。この事からランナー1塁の場面での送りバントは有用ではないという事が言え、得点期待値、得点確率共に数字を落とすという事が分かっています。

それでは、送りバントはどのような場面で行うことが有効になるのでしょうか。もしくは送りバント時体が攻撃側に不利に働く作戦になるのでしょうか。

結果からお話すると、送りバントはノーアウトの場面でランナー1、2塁、もしくはランナー2塁の場面で有効になり得る可能性を含んでいます。得点確率を見るとノーアウト、2塁の場面で送りバントを成功させると得点確率が2.1%上昇、ノーアウト、ランナー1、2塁の場面では1.8%上昇している事が分かっています。この数値はあくまでもリーグの平均的な投手と打者が対戦した場合の数値であるため、バッターの力量、投手の能力によって数字は変動します。そのため、打力のある打者であるのであれば、もちろんヒッティングが有効でしょうし、エース級の投手が投げているのであれば、送りバントという選択肢も有効であると言えるでしょう。

また、いかなる場面でも送りバントが有効だと判断できるバッターの打率の分岐は.103となります。プロ野球においても野手でこの数字を下回る人はほとんどいないため、打てる可能性の低い投手が打席に入った時に送りバントという作戦が有効になるという事が言えます。

また、ツーアウト以外でランナーを3塁に置いた時の得点期待値はワンアウト、ランナー3塁以外では1.0を超え、得点確率もワンアウト以下の場合は60%を上回ります。この事から、送りバントや進塁打という作戦はランナーを3塁に進めるという意識が重要であるという事が言えます。

このような考え方が浸透すると、決まった場面での送りバントだけが作戦ではなく、右方向を意識したバッティングや盗塁、エンドランも作戦の選択肢に含まれ、長打意外にランナーを進める方法は多岐に渡るという事に気づくことができます。野手全員が長打を打てる能力に特化しなくても、出塁率の高いバッター、右方向に打てるバッター、バント、エンドランが得意なバッター、足の速いバッターなど、それぞれの特徴を活かした攻撃が可能となります。現在のメジャーリーグでは、野手全員がフライを意識し、長打を打つという意識が蔓延し、全員が同じタイプのバッターが並ぶという単調な攻撃が目立っています。この傾向によって観客はバッターとピッチャーの対戦の結果しか見る部分がなくなり、非常に飽きやすいスポーツになっているのではないかと思います。

この事から、ランナーを2塁に送る送りバントは得点期待値、得点確率の両方から見ても得策とはではないという事が言えますが、サイバーメトリクスのように、特に作戦を与えず、打力に依存した得点効率意識した姿勢でいると、自然と試合の結果は実力通りの結果になり、単純に打撃が良く、長打が打てるチームが勝つというシンプルな結果に終着してしまいます。日本特有のスモールベースボールは主に弱者の戦法とも言われ、実力や能力の差を埋めるための創意工夫という観点もあります。

もちろん、ノーアウトランナー1塁などの決まったシチュエーションで必ず送りバントという考え方は、どんな場面でも長打狙いのヒッティングという偏った単純な作戦になってしまいますが、バントも攻撃面での一つの作戦として捉えるヒッティング、エンドラン、盗塁組み合わせると、守備面の乱れを誘ったり、バッテリー心理を揺さぶったりと、相手にプレッシャーを与え、一つのアクションとして有効になることが予想されます。

野球は一つひとつの場面で意識と役割が変わり、さらに細分化すると配球や組み立てにも影響を与え、そこには相性や読み合いというものが生まれます。こういった細かい場面、展開によって、統計という形でセイバーメトリクスのようなデータと指標、考え方が生まれるのではないかと思います。バッターの能力や傾向、特徴を測る事は統計を取ると掴む部分もあると思いますが、その統計を利用して、考えながらプレーする事がセイバーメトリクスの正しい捉え方なのではないでしょうか。

鳩山由紀夫の考え方

最後に元総理大臣、鳩山由紀夫氏の研究論文「野球のOR」から抜粋した考え方を紹介します。鳩山由紀夫氏は盗塁、バント、ヒッティングの効果について、細かく分析、統計を取り、バントについては、バントは得点を増やさない・バントは打線が弱いチームほど有効。盗塁については走者一塁で盗塁するなら7割前後の成功率が必要。ヒッティングについては四球1個の得点貢献度は単打0.83個分、本塁打1個は単打の2.25個分、.320、15本と.270、35本は、得点貢献度は同じなど分析して現代野球の考え方に通ずる基礎となる考え方が、攻撃パターンと得点について深く考察されていますので興味のある人はぜひ読んでみてください。

そして最後に鳩山由紀夫氏の論文に残した最後の言葉を引用して今回の話題を締めたいと思います。「長々と駄文を連ねたがご覧の通り問題はまだまだ山積みであるので、関心のある方は話を進めたりモデルを改良したりするのも一興と思われる。しかしながら、あまりに精巧なモデルを作ると、野球の面白さが減少する恐れがあるので注意されたい。」

ここまで読んでいただきありがとうございました。

前回

野球をつまらなくする考え方① 近代野球の傾向とは セイバーメトリクスの活用
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