野球をつまらなくする考え方① 近代野球の傾向とは セイバーメトリクスの活用

データ分析

野球をつまらなくする考え方 セイバーメトリクスからみる戦略と育成の傾向

 現代の野球において、パワーを重視し、いかに長打を打てるかに視点を置き、練習メニュー、選手育成、作戦が考えられています。そのため、送りバントや進塁打といった細かい作戦、自己犠牲の精神など、チーム全体で打線を機能させるという感覚は失われているように感じます。

 選手一人一人が自身の打撃能力を披露し、打った結果得点が入るといった非常にシンプルな野球が浸透しつつあります。そのため非常に単調なゲーム展開が増加し、見る側は飽きてしまうという現象も見られ、特にメジャーリーグではホームラン、三振、四球の割合が年々増加し、単調なゲームが多く、ベースボールの人気低下の要因となっています。

 現代野球では、データの分析、作戦面、トレーニングなどが効率化され、技術の再現性、定着もされやすく、ある意味無駄のないシンプルな形が作られつつあります。今回は効率を求めたシンプルな野球の考え方について考察を行い、その結果どのような野球が出来上がるのか考えたいと思います。

後半

野球をつまらなくする考え方② 近代野球の傾向とは 送りバントの有効性と長打以外の攻撃パターン
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セイバーメトリクスとは

 セイバーメトリクスとは野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や戦略を考える分析手法になります。野球において得点、失点について確率と、期待値、効率などの観点から、選手の能力、作戦について有効なものを考える、数値化する事ができ、以前は打率、本塁打数、打点、防御率、勝ち数、奪三振といった個人成績に関する指標が重要視されましたが、出塁率、長打率、WHIP、K/BB、など、今まで着目されてこなかった指標、成績にも焦点を当て、新たな野球観を浸透させています。

 世間で浸透したきっかけとなったもので、ビリービーンのマネーボールがあり、セイバーメトリクスの名前も世に広める結果となりました。ここまでは野球ファンの間では知っている方も多くいると思います。しかし、セイバーメトリクスには様々な指標があり、また一つの指標だけでは、選手の評価、作戦の効率化のために採用、補完することは難しく、様々なデータ、指標を複合的に判断しなければなりません。要するにセイバーメトリクスは野球というスポーツを効率化する側面がある中、分析、活用するにあたり、採用する人のセンス、主観、感性が混ざり、正しく活用するまで、複雑な過程を通る傾向があります。

 このことが起きる要因として、完全に体系化した基本的な考え方が完成していない部分と、結局はどのように採用するかは、現場次第であるということ、また選手の能力は日々変動し、あくまで平均数値を出すことはできるが、野球というスポーツは9人で行うためであり、選手の個性もバラバラであり、不確定な要素とデータ量がとても多いという事が挙げられます。

 しかし、セイバーメトリクスを利用した効率の良い点数の取り方、勝利への過程、選手の育成については確定されつつあることも事実です。

 この確立された理論に選手と現場が着実に実行でき、選手の能力、役割も定着してくると野球の作戦は非常にシンプルになり、効率化が図られ、野球というスポーツは確実に面白くなくなります。

セイバーメトリクスを利用した面白くない考え方

ここからはセイバーメトリクスを利用した野球が面白くなくなる考え方、効率の良い作戦、選手育成についてご紹介したいと思います。

野球はすごろくゲーム

 まず、攻撃面においてのセイバーメトリクスの考え方の基本として、野球のベースを4つのマスとして考えます。野球というスポーツはこの4つのマスを3つのアウトの中で、できるだけ多く進め、ゴールであるホームベースを多く踏んだチームが勝利します。さらに簡単な言葉にすると、アウトにならずにベースというマスを駒が多く進むことが目的のスポーツということになります。そのため、バッターはいかにアウトにならないか、いかに塁を多く進める事ができるのか、この2つ能力、役割が求められます。

 この2つの要素を表した指標が出塁率と長打率になり、双方を足した数値がOPSといったバッターの能力をシンプルに数値化したものになります。出塁率は打席の中で塁に出る確率、言い変えるとアウトにならない確率と言え、長打率は1打席あたりで、バッターがどれだけ塁打数を稼げるかという期待値であり、シングルヒットが1、ツーベースが2、スリーベースが3、本塁打4と表し、本塁打である塁打数4最大値になり、バッターが1打席でどこまで進む事ができるのか表す指標になります。

 この2つの指標を先ほどのマスの理論に当てはめると、出塁率はアウトにならず駒がマスに進める確率、長打率はバッターという駒がどのくらいマスを進める事ができるかという期待値になります。野球というスポーツは常にこの駒を進める作業を延々と繰り返し事になります。

 そのため、バッターの能力は出塁率と長打率を足したOPSという指標でほとんど能力と役割が測られ、この考え方を追求した野球が現代野球の主流となっています。この事から安打数はもちろんの事、四球数も価値があると見出され、塁打数の最大値であるホームランを目指すという事が、一番効率の良い点数の取り方だという事が浸透し、現代では四球数とホームラン数に価値が置かれる傾向になっています。さらに細分化すると、選球眼やコンタクト率を数値化した指標や、長打が出やすいアプローチ方法や打球速度、角度を示したバレルソーン、ハードヒット、スウィートスポットというものが基準になっています。

 要するにバッターはボール球を振らずに、ストライクゾーンを確実に捉え、適した打球速度と角度を目指すという事が基本的な目的、目標になります。逆に言うと守備側は四球を出さず、長打を打たせない事、そのためには三振、空振りを奪う能力を伸ばすという事が求められています。この事を突き詰めると前述した通り、三振か四球、ホームランのどれかに結果付く事が非常に多くなり、野球というスポーツは以上の事を突き詰めたものに変わりつつあります。

 そのため、バッターは長打、本塁打を目指し、ピッチャーは四球を出せないで、三振を奪うという非常に大雑把なスポーツになってしまいます。また打線の組み方においても、作戦面という考え方は軽視され、期待値が高い人から打たせるようOPSが高い順番に打線を組むという事態に陥ってしまいます。

 以上が現代の野球界が進もうとしている道であり、セイバーメトリクスに沿った、選手育成、打席への臨み方、野球への取り組み方が確立されると試合の勝敗もデータ、確率に基づき、非常に予想されやすくなってしまいます。

 スポーツというものは、不確定要素、ギャンブル性が、ゲームが盛り上がる重要な要素となり、試合がどうなるか分からないゲーム性を楽しむ事が本来の形になります。その過程の中で、様々なアクションや場面がある事で、エキサイティングする試合が成り立ち、ファンは勝敗を基に選手の対決や結果を楽しんでいました。現代の野球のようにデータ、確率が蔓延、浸透する事で、未来が予想しやすく、結果が見えやすくなる、不確定要素、不利な要素は避けやすくなることで、いわゆる見せ場というものは非常に少なくなり、スポーツを楽しむためのギャンブル性、ゲーム性が損なわれ盛り上がりに欠けるという結末になってしまっています。選手は効率を求めたデータを実行する駒に過ぎず、延々と確率を求めた4つのマスを進める作業をこなすだけの存在になってしまいます。以上の事が野球を面白くなくしてしまう大きな所以になります。

 次回はこの事を踏まえて、原来の野球の作戦や意識、取り組み方は果たして間違っていたのか、また、果たして今の野球の考え方は本当に効率の良い考え方なのか、過去の事例、研究を基に考察したいと思います。

後半 続き…

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