日本人野手が通用する条件とは過去の事例と共に振り返る
投手では野茂英雄選手、野手ではイチロー選手を皮切りに多くの日本人選手がメジャーリーグに挑戦してきました。しかし、ここ最近は日本人野手の成績低迷が目立ち、帰国を余儀なくする選手も多く見られます。しかし、メジャーリーグで複数年活躍している選手も数多く存在しています。今回は過去事例を踏まえ、日本人野手がメジャーリーグで活躍するための条件について考察したいと思います。
日本人野手の最近の傾向
日本で高水準かつ安定した成績を残した鈴木誠也選手が2022年にメジャーリーグに挑戦するということで渡米されました。ここ数年は日本人野手の活躍は乏しく、最近では秋山翔吾選手、筒香嘉智選手が渡米されましたが、成績は芳しくなく、2人ともマイナー落ちを経験され、秋山選手は、メジャー契約は難しいという事で日本へ帰国する結果となりました。
特に日本人の内野手の活躍は10年以上見られず、過去には松井稼頭央選手、井口資仁選手、岩村明憲選手など、数年に渡りレギュラーとして活躍された選手はいますが、それ以降は日本人の内野手はメジャーへ挑戦しても、レギュラー獲得までは至らず、成績低迷により日本球界に復帰する傾向にあります。
現在二刀流で活躍している大谷翔平は、今までの日本人野手に見られないパワーで圧倒するスタイルでホームランを量産しています。過去に松井秀喜選手が日本人初となるシーズン本塁打数30本を越す31本のホームランを2004年に放ちましたが、2021年に大谷選手はその数字をゆうに越す46本のホームランを放ちました。
今までの日本人野手の傾向としては、決してスラッガータイプと呼べるような選手は見られず、イチロー選手のようなヒットを量産するアベレージタイプや、松井秀喜選手、福留孝介選手、城島健司選手、井口資仁選手のような、打率もある程度維持しながらクリーンナップも打てる程度の長打も打てる中距離打者タイプ、青木宣親選手、田口壮選手、岩村明憲選手、松井稼頭央選手のようなレギュラーを保ちながら、何番でも打てる、応用、小技が効くスーパーサブかつユーティリティタイプが主流となり、いずれもパワーを売りにする選手は今まで現れませんでした。それだけ大谷選手のバッターとしての成績は突出しており、今までに見られない異例な活躍をしている事が分かります。
かつて日本でスラッガータイプとして活躍した選手でメジャーへ挑戦した選手は松井秀喜選手の他に中村紀洋選手、筒香嘉智選手がいますが、いずれもメジャーリーグでは成績が低迷し、持ち前のパワーを生かすことは難しい結果となりました。
その中、2022年に広島カープの鈴木誠也選手がメジャーに挑戦し、9月7日時点では
.261、11本塁打、43打点とまずまずの成績を残しています。
日本では、常に打率は3割以上を乗せ、本塁打も平均30本辺りに推移していました。日本でもパワーを売りにしたスラッガータイプというよりは打率も残せる中距離打者タイプに近く、右左の違いはありますが、過去では福留孝介選手が近いタイプになるのではないかと思います。
しかし、鈴木誠也選手は決してパワーが不足している選手ではなく日本最終年は38本のホームランを放ち、長打力も期待される選手です。
このように高いアベレージを残しつつ、長打も打てる鈴木誠也選手ですが、今後どの程度の活躍が期待できるのでしょうか。過去の事例と共に今後の日本人野手の活躍の期待度を考察したいと思います。
過去の事例から考察
青木宣親選手と西岡剛選手の決定的な違い
先ほどご紹介した通り、日本人メジャーリーガーはアベレージタイプ、中距離タイプ、ユーティリティタイプに分けられますが、日本球界に所属時点でこのタイプに属する選手は基本的にはメジャーリーグでは控えやマイナーリーグに回ることが多くなります。このタイプに属する選手で共通して言えることは皆、パワー不足が共通点として挙げられます。
イチロー選手や青木宣親選手のようなアベレージタイプの選手でもNPB時代でも年間2桁ホームランを必ず放ち、年間本塁打数もイチロー選手25本、青木選手20本と両選手共にシーズン20本以上のホームランも経験しています。
イチロー選手や青木選手ともにシーズン200本安打を達成している西岡剛選手も日本では14本塁打が最多で複数年2桁本塁打を放ちシーズンはありましたが、20本までホームラン数を伸ばすことはできませんでした。また、一桁代でホームラン数が推移するシーズンも珍しくなく、決してパワータイプ、もしくは中距離タイプと呼ばれるような成績を残すことはありませんでした。他にも川崎宗則選手や田中賢介選手もメジャーへ挑戦しましたが、日本で2桁本塁打を記録することはなく、打率も.330前後の数字を残すシーズンもありましたが、シーズン3割を切るシーズンも度々見られ、本塁打、打率ともに複数年に渡り、突出した数字を残すことはできませんでした。
メジャー成功へのボーダーラインの成績
この事から、日本人野手がメジャーリーグで安定した数字を残すためには、常に打率.320以上を残す安定したアベレージの他に、最低でも20本近く本塁打を放つパワーが求められるという事分かると思います。パワーと確実性を両立した選手こそがメジャーで活躍する資質がある選手と言え、この条件を満たした成績を日本時代に複数年記録することが必要となります。選手によっては怪我の影響や不調により、思ったような成績を残せなかったシーズンはありますが、その後、持ち直し、万全な状態のシーズンは、打率.320以上、(アベレージタイプの選手は350以上)本塁打30本前後(スラッガータイプは40本前後)の数字を複数年記録しています。
この事から、日本人野手がメジャーに挑戦する場合は、打率.320、本塁打20本程度の成績がボーダーラインになり、これ以上の成績を複数年安定して残すことがメジャーで活躍する条件に値すると言えます。
そして、さらにこの数字を安定して残した上で、走力、肩の強さ、守備力といった身体能力の高さと強さを維持したプレーが常に求められます。特に内野手では、送球の強さや球際の強さ、守備範囲の広さが求められ、高い身体能力が求められます。
打撃の他にこのようなディフェンス面、機動力でも能力の高さを求められる内野手は日本人にとってはとても高いハードルになるのではないでしょうか。近年では井口資仁選手がこのようなタイプに当てはまり、メジャー挑戦前の2年間の成績は共に打率.330を超し、ホームランも30本近くを放っています。また、2001年2003年は共に40盗塁以上を記録し両年とも盗塁王を獲得しました。成績もしっかり残す中で体も年々大きくなり、パワーとスピードを維持したまま、万全な状態でメジャーへ挑戦し、メジャー1年目、2年目ともにレギュラーとして活躍、打率も.278.281、本塁打も15本、18本を記録し、安定して長打力も発揮しました。しかし、裏を返せば日本でこれだけの準備をして、成績を残した井口選手でさえ、打率.280程度、本塁打も20本に届かず日本時代のような圧倒的な数字を残すことはできなかったという事が言えると思います。
日本最終年とメジャー1年目の成績の違い どのくらい数字を落とすのか
メジャーで複数年レギュラーとして活躍した選手の渡米1年目の成績を見ても日本時代に比べて、皆軒並み成績を落としています。打率、本塁打数、長打率はほとんどの選手が数字を落とし、リーグトップレベルの成績を残すことは非常に難しい事が現実となっていました。
個人差はありますが、このようにほとんどの打者が打率を前年に比べて、打率を.050近く落とし、本塁打数も10本付近に推移する結果となりました。
このように、打率.320→.280、本塁打20→10とこの辺りの数字が日本人野手の1年目の平均値と大体一致すると思います。またOPSを見てもほとんどの選手が0.15以上の数字を落とし、特に長打率が低下している事が分かります。その反面、打率、長打率の低下と比べて出塁率の低下は控えめである事から、選球眼、ボールへの対応、スイングアプローチに関しては、それ程影響はなく、比較的適応しやすいという事が言えます。
しかし、打率、本塁打数、安打、長打の数が減少することで、長打率の低下が著しく、結局パワー不足により、成績が低迷するという事が分かると思います。
このように、メジャーで活躍する日本人野手の特徴は日本時代に.320以上のアベレージを安定して残す事ができ、その上で最低20本以上の本塁打を放つ長打力をボーダーとして、その上でパワーについてメジャーに適応できないと、トップクラスの成績を残すことは難しいという事が言えます。今までパワーという言葉をホームランの数、飛距離程度でしか測ることができませんでしたが、近代野球では、スイングスピード、打球速度、身体能力等の様々なデータと数値で選手の能力を測る事が可能となりました。この事からパワーの獲得に向けてがむしゃらにホームラン数を伸ばす事、飛距離を伸ばす事を考えるのではなく、身体能力、体の強さも強化し、メジャーに通用する体づくりをする事が求められます。
現代のメジャーリーグの傾向と盲点
現在のメジャーリーグはフライボール革命の影響も大きく、年々ホームラン数が増加しています。メジャーでは高い確率で長打を打てる選手を揃える事が効率の良い点数の取り方という認識が広まり、レギュラー選手は軒並み、長打を打てる選手が重宝され、上位打線を打つ事が多いです。こういった傾向がある中、比較的パワーが不足している日本人選手がレギュラー選手として、活躍できる余地はあるのでしょうか。先ほど、私は日本人野手がメジャーで活躍するために必要な事はパワーの獲得だという事をお話しさせてもらいましたが、実は日本人野手がメジャーリーグで活躍するための要点は別にあります。
日本人選手の需要とは
日本野手がメジャーで活躍するために必要な事として、パワーの獲得の他にスピードを生かす事が求挙げられます。しかし、このスピードという概念がメジャーリーグの間では、盲点となっており、フィールド内でのプレーを想定して能力を伸ばすという考えが若干欠けている側面があります。日本ではスモールベースボールというものがあるように、いわゆる甲子園大会のようなバント、エンドラン、盗塁といったホームランや長打にあまり依存しない作戦が日本球界で根付いています。日本でもフライボール革命の影響は強く、強い打球を打つことや、飛距離やホームランを求めてプレーする選手は珍しくありませんが、しかし、案外日本では典型的なパワーヒッターは少ない傾向にあります。
日本プロ野球のトッププレイヤーの選手やメジャーに挑戦した日本人選手を見ても、スピードを兼ね備えた5ツールプレイヤーがとても多いです。
メジャーに挑戦した日本人野手を見ても、打率.320、ホームラン20本を最低ラインにして、その上で走塁、盗塁技術に長けたり、走力、スピードが平均より上回る選手がほとんどです。近年のドラフトを見ても体格の大きい、典型的なスラッガーの上位指名はあまり見られず、打力もさることながら、スピード、パワー、肩の強さ、体の強さを期待されて上位指名されています。
このように日本球界には日本球界なりの特色を持ち合わせ、海へ渡る選手は打撃の他にスピードや走塁技術等で、フィールド内のプレーで持ち味を発揮し重宝される選手が多く見られており、その最高峰の選手がイチロー選手になります。長打を狙える能力を持ちながら、ヒットを放つ事に神経を注ぎ、世界のヒットメーカーとして名を轟かせました。また、持ち前のスピード、走塁技術、肩の強さ、守備力でファンを魅了し、長年1番バッターと活躍しレギュラーとして試合に出続ける事ができました。
現在メジャーでスラッガーとして活躍している大谷選手をみても2021年は26盗塁を記録するなど、スピードを兼ね備え、怪我を恐れないような積極的な走塁も目立っています。
過去に活躍した、井口選手、松井稼頭央選手、岩村選手、福留選手、青木選手もそれぞれ、スピードと走塁技術が長けており、2桁の盗塁数を記録シーズンも経験しています。また、打順をどこにおいても遜色なく、ケースに応じたバッティング、進塁打、出塁が期待でき、その上で最低限のアベレージ、長打力も持ち合わせた非常に使い勝手の良いプレイヤーであったという事が言えると思います。また、日本で圧倒的な数字を残した訳ではない、新庄選手、田口選手も同じく、外野手として、スピードと守備力、ユーティリーティ性を評価され、複数年メジャーに在籍する事ができました。
この事から、日本人野手がメジャーで活躍する選手はパワーの他にスピードや走塁技術といったフィールド内で起きるプレーの中で輝くことができる特殊なプレイヤーとして活躍できる期待を多く持ち合わせています。スモールベースボールという言葉を聞いて、小技や小手先といったイメージを持つ方も多くいると思います。しかし。あくまでもスモールベースボールとは意識、作戦上の話であり、選手の能力を小さくまとめるという意味ではないと思います。
スピードとパワーを兼ね備えた5ツールプレイヤーのような選手が応用と技術を活かし、作戦面、工夫の幅が広がるという事がスモールベースボールの本質であり、これからの野球界において必要な選手になる可能性は高く、そのような要素と意識は日本球界の中でしっかりと根付いているのではないでしょうか。
また、パワーとスピードは密接な関係にあります。どちらかを失い、どちらかを獲得するといった、相反するものではなく、両方を同時に伸ばす事が可能となります。怪我のない強い体づくりをしていく中で、パワーとスピード両方とも兼ね備えた選手がこれからのトッププレイヤーになるのではないかと私は予想しています。
メジャーリーグでも最近のMLBの人気低迷はフィールド内のプレーが極端に減ったからではないかと分析も進んでいます。最近はトッププレイヤー同士が戦っても、ホームランか三振、もしくは四球といった
結果に落ち着く割合が非常に高く、見る方はあまりエキサイティングしないという分析結果も出ています。本来ベースボールというものは打って、走って、守るものだとされています。その中で、作戦や配球、走塁、守備などの工夫が野球の醍醐味になるのではないでしょうか。今後のメジャーの野球の方向性の変化も期待して、日本人選手がその台頭になるのではないかと期待したいと思います。
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