ヤクルトスワローズと”ゆとりローテ” 投手運用と今後の育成方針 未来モデル 強さの秘密

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ヤクルトスワローズと”ゆとりローテ” 投手運用と今後の育成方針 強さの秘密

 2022年シーズン、ヤクルトスワローズは首位を独走し、非常に好調な状態を維持しています。好調の要因の一つとして、ピッチャー運用が挙げられていますが、特に先発投手のゆとりローテが話題となっています。今回は今までのプロ野球ではあまり見られることのなかったヤクルトスワローズのゆとりローテと投手運用に焦点をあて考察をしたいと思います。

ヤクルトスワローズの”ゆとりローテ”

2022年のヤクルトスワローズは先発投手を6人で回し、谷間投手、雨天中止、空きゲームなどを組み合わせ、一部の投手は中6日を軸に登板していますが、基本的には中7日、中8日、中9日、中10日とゆとりのあるローテションを敷き先発投手を運用しています。

このようなローテションは、現代野球においても非常に珍しい形であり、先進的な試みになるのではないかと思います。近年のプロ野球では、先発ローテションを基本中6日で回し、時には中5日で先発をする事も珍しくありません。しかし、ヤクルトスワローズは2022年シーズン前半終了時点では先発投手を中5日で登板させる事は一度もなく、投手の登板期間の管理は徹底されています。非常に珍しい先発ローテの形ですが、ヤクルトスワローズの首脳陣はどのような考えがあってこのような先発ローテを組んでいるのでしょうか。

休養を与えて長いイニングを目指す

本来先発ローテションは計算できる投手を固定し、決まったメンバーでローテションを回すことが理想とされています。しかしヤクルトスワローズは、変則的なローテションで敢えて登板期間を空けて先発投手を試合に送り出します。その理由として、投手をベストな状態で登板させたいという意図があります。伊藤智仁1軍投手コーチは「6人で1年間きっちり回ってくれるのがベストだが、7人、8人、9人くらいで回していければ。その間は休みつつみたいな感じが理想」とコメントされている通り、投手のベストのパフォーマンスを引き出すために、敢えて登板間隔を置いている事が分かります。

絶対的エースや一線級の計算できる投手については敢えて長い期間の登板間隔を置く必要はありませんが、若手の選手やある程度計算できる投手については、ベストパフォーマンスを引き出し、出来るだけ長いイニングを投げてもらう事で中継ぎ投手の負担を減らす事も可能となります、
この事により、ヤクルト投手陣の成績は安定しており、ゲーム展開も計算しやすく、安定した投手運用が可能となっているのです。

またしっかりと休養を得る事で体の状態をベストコンディションにすると共に、怪我の予防にも繋がっています。前半戦のヤクルトスワローズは、登板間隔をあける事で大勢の投手が先発登板をしているとイメージされる人も多いのではないかと思いますが、実際は、小川泰弘、サイスニード、高橋奎二、原樹里、高梨裕稔、石川雅規の6名の投手でほとんどのみでローテションを回しており、時折、谷間投手に若手や外国人投手を登板させる事だけに留めています。

このようにヤクルト投手陣は怪我やコンディション不良で戦線を離脱する事はほとんど見られず、シーズンを通してベストな状態で過ごしている事が分かります。

投手をベストな状態で登板させ、過度な期待や、消耗を防ぎ、一人一人の負担も少なくなり、総合的に分散して投手運用をする事で、チーム全体が安定した成績が残すことができています。

2015年の投手運用

ヤクルトスワローズのゆとりローテは今シーズンから話題となりましたが、実は2015年の優勝したシーズンもこのような投手運用を実践していました。

当時は真中満さんが監督で指揮を取り、高津慎吾現監督は1軍投手コーチでした。当時高津「中継ぎが8人いれば早い回でのワンポイントも使えるし起用の幅が広がる」と考え、先発投手の中7日制と、中継ぎ投手の8人制を敷き、先発枠を6人に固定せず登録と抹消を繰り返すことで、ブルペンには常に8人を待機させました。

開幕当初は、小川泰弘、石川雅規、杉浦稔大、成瀬善久、石山泰稚の5人の投手でローテションを回していました。しかし4月中早々に杉浦投手が怪我で離脱、5月に石山投手が登録抹消と早々とローテーションが崩れてしまいました。変わって、新垣渚投手や古野正人投手がローテションに加わり、6月には山中浩史投手、館山昌平投手がローテションに加わり、その辺りから登板後すぐ抹消という方法を取り入れ、8人の投手でローテションを回す事となりました。

しかし、8月に入ると成瀬投手、新垣投手、古野投手、山中投手と、ゆとりローテを守っていた投手たちが次々に完全に抹消状態になり、ゆとりローテは自然解体となりました。

そして9月に入ると、ほとんど小川投手、石川投手、館山投手、石山投手の4人だけで回すという、これまでとは打って変わったフル回転ローテとなります。小川投手、石川投手はこれまでほとんどなかった中5日、中4日の登板も増え、大事に使われていた館山も最後は中5日の登板をしています。中でも石川投手は9月の成績は、5戦5勝防御率1.21と抜群の安定感でチームを牽引し、月間MVPを受賞する程の活躍を見せました。

シーズン中盤は余裕のあるローテーションで投手の余力を残し、優勝争いが激化するシーズン終盤に計算できる投手をフル稼働する事で、9月のヤクルトは13勝6敗と大きく勝ち越し、混戦のセ・リーグを制して優勝しました。

当時のヤクルトスワローズの投手事情は決して良いとは言えず、苦しい投手運用が強いられました。しかし、無理に5人でローテションを回す事に拘らず、登録抹消を繰り返す事で中継ぎの負担を極力減らす事に成功し、総力戦でシーズンを乗り越える事ができ優勝への大きな要因となりました。

谷間の存在、若手の育成

2022年シーズンの前半は6人の投手を基本に先発ローテを回していますが、当初はこのメンバーの他に奥川投手が中10日の登板間隔で入る予定でした。しかし、開幕2戦目先発し4回で降板して以降、怪我のため1軍での登板は見られていません。

そのため、新外国人のスアレス投手や若手投手の吉田大喜投手、金久保優斗投手、育成上がりの小澤投手といった4名の選手が登板しています。

本来、奥川投手が入るはずだったもうひと枠が埋まらない状況が続いており、いわゆる谷間としてローテションが回っていますが、この谷間の枠にどのような投手が入るのかは、一つの楽しみになると思います。ヤクルトスワローズは近年、支配下登録を70人までにするという一つの縛りを解放し、他球団の戦力外の投手を積極的に獲得し、見事1軍の戦力として活躍している選手が多く見られています。また育成枠で選手を育て、ファームで実戦を重ね、1軍にて結果を残す選手も見られ始めていますので、奥川投手が戻ってくるまでは、若手、育成上がりの選手などの様々な選手のチャンスになるのではないかと思います。

また、奥川投手や高橋奎二投手などの若手の期待する投手に至っても、いきなり登板間隔を詰めることはせず、成績を安定して残すと共に、徐々に登板間隔を詰めて試行していく方針を高津監督や伊藤智仁コーチも明言しています。

まとめ

以上のように、ゆとりローテを敷く事により、様々な選手の登板機会は増え、登板間隔が開く事でベストな状態で登板し、高いパフォーマンスを維持する事が可能となりました。現在のヤクルトスワローズ投手陣はまさに総力戦であり、たくさんの選手がベストな状態で実戦の機会が与えられています。

また、このようなゆとりローテはあくまでも一つの手法であり、ヤクルト首脳陣が語るように本来は計算できる投手を6人でローテションを回すことが理想となります。現在のゆとりローテで回していく中で若手選手がベストな状態で経験を積み、ゆくゆくは主力としてローテションを回す将来も期待できます。

このように今までの常識に拘ったローテションだけではなく、チーム事情に沿って様々な形を柔軟に取る事で、ゆとりローテのような形は今後の野球界において大きく影響を与え、一つのモデルになる可能性は十分にあると思います。近年の野球界は無理なく怪我をしない事で長く選手人生を送る事を大切にされているため、このような投手運用は今後広がっていくことを期待したいですね。

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