ライジングファストボールの投げ方と条件 藤川球児の教え 吉田輝星のストレートの質

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ライジングファストボールの投げ方と条件 藤川球児の教え 吉田輝星のストレートの質

皆さんはライジングファストボールをご存じでしょうか?ここ数年でメジャーリーグに浸透した新しい概念ですが、このボールについてメジャーでプレーをした加藤豪将選手がTwitter上で分析していましたのでご紹介したいと思います。

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ライジングファストボールとは

ライジングファストボールとはボールが沈みづらく、浮き上がるように錯覚するストレート系のボールを指します。日本プロ野球では藤川球児投手のストレートが有名ですが、最近のメジャーリーグではこのように浮き上がるようなストレートを意図的に投げる技術が浸透しつつあります。実際にデータを活用して、ボールの軌道、回転数、ボールの角度などを数値化し、ライジングファストボールを投げる条件も確立されています。

加藤豪将選手は自身のTwitterでライジングファストボールの条件をこのようにあげています。

①回転数とSpin Efficiency 
②低いリリースポイント
③マウンドの傾斜を使う
④高めに投げる

加藤豪将さんのTwitter上では①回転数とSpin Efficiencyは主にピッチャーのボールの質と回転数、回転効率について、②③④についてはピッチャーのリリースからキャッチャーに届くまでのボールの軌道と角度について触れています。この事を踏まえて、今回は⑴ボールの回転数、回転効率、角度について、⑵リリースとボールの軌道の2つの項目に分けてライジングファストボールについて解説をしたいと思います。

①回転数とSpin Efficiency(ボールの回転数、回転効率、角度について)

縦回転のバックスピンで回転数が多いほどマグヌス効果が下から働き、ボールが伸びるという事は現代野球において常識になりつつあります。そのためボールの回転数と回転軸、角度も分析し自分の投げるボールの性質と特徴を知る事は必須になってきました。その中Spin Efficiencyという数字が着目され、ライジングファストボールを投げるためには必須な条件としてあげられています。

Spin Efficiencyとはトラックマンやラプソードから計測される、ボールの回転効率の数値を表しています。ボールの回転は「True spin」と「Gyro spin」の2種類に分けられます。 

True spinとは、実際の変化量・変化方向に関わるスピンのことで、バックスピン、トップスピン、サイドスピンなどがあてはまります。

Gyro spinは回転軸が進行方向を向いているため、ボールの回転が実際の変化方向に影響を与えないスピンのことです。よく言うジャイロ回転のことを差し、フットボールや銃弾のような回転で、回転軸が進行方向を向いており空気抵抗が少ないことが特徴です。そのため球速は落ちづらいですが、マグヌス効果のような揚力を得づらくボールが沈みやすくなります。

投球の回転は変化量・方向に影響を与えるTrue spin空気抵抗に関わるGyro spinに分けられ、
すべてのボールの回転は、これらの2つのスピンの和によって構成されています。

Spin Efficiencyとはピッチャーが投げるボールの総スピンの中の「 True spin 」の割合を表した数値になります。

つまり完全なバックスピンやトップスピン、サイドスピンだとSpin efficiencyは100%になり、完全なジャイロスピンは0%になります。

True sipinの割合が大きい程、ボールの回転数が変化量・変化方向に対しての影響が大きくなり、Spin Efficiencyの数値が高いほどボールは大きく変化するということが言えます。このことから、綺麗な縦回転のバックスピンでSpin Efficiencyの数値が高いボールほどマグヌス効果が下からボールを持ち上げるように働き、ボールが重力に引っ張られることなく、浮き上がる軌道のようなストレートを投げる事ができます。

このようなボールの性質をホップ成分と呼び、ホップ成分は無回転のボール比べて、何センチ高い位置でホームベース上を通過したかを表します。メジャーリーグでは平均43cm〜44cmで推移し、50cmを超えると優秀とされ、中には60cm以上の数値を残す投手も稀に見られます。このホップ成分が高いほどバットの上を通過する事が増え、空振りが奪いやすいボールになると言えます。

ちなみにSpin Efficiencyと真逆であるGyro spin100%のボールは回転数と回転軸の影響を全く受けず、重力のみボールに作用するため、フォークボールのように落ちるようにホームベース上を通過します。

また、True spinの割合が高いボールでもシュートやスライダー方向にサイドスピンが掛かってしまうと回転の方向に応じたマグヌス効果が発揮され、カーブやスライダー、シュートといった変化球となってしまいます。

②リリースとボールの軌道

加藤豪将選手はTwitter上でライジングファストボールを投げるため回転数の他に①低いリリースポイント②マウンドの傾斜を使う③高めに投げる、という3つの条件をあげていました。この3つの条件は投げるボールの軌道に角度を付けず、地面となるべく並行な軌道を描くようにする事を目的としています。この事を明確に数値化したのがVAAという概念になります。

■VAA (Vertical Approach Angle)とは? リリースされたボールがホームプレートに到達するまでのボールの角度 高めに投球した時に『VAAが4度』に近づけば近づくほど速球の質が向上し空振り率も高くなる 高めに投球し空振りを奪いたい場合は『VAAを5度以下』にする

出典:ライジング・速球の新要素 『VAA(Vertical Approach Angle)』

VAAの高いピッチャーはストレートの空振り率が高い傾向にあります。最適なVAAを引き出すためにはリリースポイントの高さが大切になり、同時にSpin Efficiencyの数値も依存します。また、Spin Efficiencyの数値が優秀でなくても、VAAの角度が守られているとライジング効果を生み出す事が出来ます。

よって、Spin Efficiency(綺麗なバックスピンかつ、高い回転数)の数値を高める事とVAAの数値を5度以下にすることで浮き上がるような軌道を描くライジングファストボールを投げる事ができます。

藤川球児と吉田輝星のストレート

現代のプロ野球において、このようなライジングファストボールを武器にしている投手として日本ハムファイターズの吉田輝星投手があげられます。また現役を引退されましたが、阪神タイガースの藤川球児投手がライジングファストボールのような高めの伸びるストレートを武器にしていました。

出典:https://full-count.jp/2022/04/30/post1214532/

藤川球児さんから吉田輝星投手への指導

藤川球児さんは2021年の春季キャンプにて吉田輝星投手に、下半身と軸足の使い方から始め、体を縦に使う回転軸について等、体全体の使い方を指導し、結果的に安定したリリースを再現できるよう指導しました。

吉田輝星投手は高校時代、甲子園では伸びのあるストレートを投げ込み見ている人を魅了しました。プロ入りしてからは高校時代のような伸びのあるストレートを安定して思うように投げられなかったことで結果を残せませんでした。

吉田輝星投手は本来、綺麗なバックスピンのボールを投げ、高いSpin Efficiencyの数値を記録していました。また身長も175cmとプロ野球選手にしては決して高くない身長のため、ボールに角度を付けて上から投げ下ろすタイプではないためVAAの角度も5度以下に収まりやすくなります。

このような条件を満たす事でライジングファストボールのような沈まないストレートを武器にして活躍を期待された吉田輝星投手ですが、実戦の中で結果を残すため、変化球の精度、コントロールの安定も求められるため、時には小手先を使い自分の思ったフォームで投げられない事で、結果的にリリースにブレが生じ、思ったストレートが投げられない事もあると藤川球児さんもメディアに向けてお話をされていました。

藤川球児さんは速く綺麗なストレートを投げるためには、腕の振りの軌道を横にずらす事なく、体の近くを真っ直ぐ縦に通るように意識する事と、軸足の膝の内側を外に折らないで中に入れて力を伝えるという事をお話しされています。2021年の吉田輝星投手のピッチングフォームを見ると、明らかに腕の振りが以前より高くなり、腕を縦に使っていることが分かります。また腕を縦に使うためには体の軸も縦に使わないといけなく、その為には下半身の体重移動をする際に体の軸を横にぶらさないようにする事が必要となります。吉田輝星投手は2021年からライジングファストボールのように従来の伸びのあるストレートが目立つようになり、上半身、下半身の軸がブレる事なく、縦方向に腕も体も回転するという技術が定着しつつある様子がうかがえます。

以上の事から、正しいフォームで投げる事でリリースが安定し、ボールにうまく力が伝わり、ライジングファストボールを投げる条件が満たされるということが分かると思います。野球の技術のデータ、数値を照らしわせて、自身の感覚と合致させていくという視点は技術向上のために必須になりそうですね。

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