何故メジャーリーグで流行!? ショートアームという投球フォーム メリットとデメリット
ショートアームとは、最近のメジャーリーグのピッチャーに多く見られる投法になります。2022年2月に日本人3A選手の加藤豪将選手がTwitterにてアメリカでショートアームが増えてきている事で、ダルビッシュ選手と野球トレーナーの前田健さんに意見を求めた事で話題に上がりました。今回はそんなショートアームのメリットについてお話をしたいと思います。
加藤豪将さんのツイート
ショートアームとは
ショートアームの特徴はピッチングフォームにおいてトップを小さく早く作る事です。同じ動作として、内野手の送球が上げられ、素早い送球を求められる内野手はショートアームでスローイングしています。
従来の投げ方
従来のピッチングフォームはテークバックの時に肩肘を背中の後ろまで引き、腕を大きく回してトップの位置まで腕を持っていきました。この投げ方は腕をしなるように投げているようにという基本的な考え方に沿っており、ボールに力が伝わりやすいような投げ方に思えますが、肩肘への負担は大きく、強い球を投げられる分、怪我の可能性が高くなる投球フォームでした。そのため、ピッチャーは肩甲骨を柔らかくして怪我のリスクを減らす可動域を広げるトレーニングをする事も主流となっていました。
ショートアームのメリット
ショートアームのメリットに下記の3点があげられます。
従来のフォームのようにテークバックを大きく取りますと、動きに無駄が生まれやすくなり、トップの位置が安定しなかったり、下半身と上半身の連動性がうまく取れず、投球フォームの安定性が欠けてしまう特徴があります。
ショートアームはこの無駄な大きい動作が少なくなるため、トップを安定して作れる事でピッチングフォームに安定性に繋がり、同時にコントロールの安定性が生まれます。
また、肩肘を必要以上に背中側に引く動作が起こりづらくなり、怪我の防止にも繋がるメリットがあります。
逆W字型ピッチングフォーム
テークバックを取る際に一番体に負担が掛かる形として逆W型があげられます。
この逆W字型はテークバックの時に肘が肩のラインより下がった状態で、肩肘を背中側に引きロックを掛けた状態で投球動作に入ってしまう事を指します。
出典:https://www.google.com/amp/kitchensink11.seesaa.net/article/365786490.html%3famp=1
負担のかからない肘の使い方の鉄則として、肩のラインより肘の位置を下げてはいけないという事があります。肘を肩のラインより下げない事を意識すると、必然的にトップの位置も肩より上のラインに置く事ができますが、逆W字型はトップの位置が肩のラインより低くなってしまう事が特徴になります。
元ヤクルトスワローズの伊藤智仁投手がこの形に当てはまり、肩関節の軟部組織が無理な方向に引っ張られ力が加わるため、肩関節が緩くなりやすい傾向があります。肩の脱臼と同じ部分が損傷を受けるそうで、伊藤投手は現役生涯ルーズショルダーに悩まされ、3度の肩手術を行い、現役終盤では投球中に亜脱臼を起こし、最終登板では球速は109km/hが背一杯で、150km/hオーバーの速球とキレのあるスライダーを投げ込むピッチングスタイルは見る影も無く、33歳の若さで引退されました。
出典:https://www.google.com/amp/kitchensink11.seesaa.net/article/365786490.html%3famp=1
伊藤智仁投手のように肩肘を背中側に引き寄せ、腕のしなりを使う投球フォームは球に力を加えやすく、勢いのあるボールを投げられるメリットがありますが、まさに諸刃の剣であり、それだけ体に負担がかかり、その分の体の強さが必要となります。また、長い間続けられる投球フォームではないという事が言えると思います。
ショートアームはこういった危険性を回避した効率の良い安定したフォームであり、先発ピッチャーのように長いイニングを体の負担を少なく安定して投げたい投手にはピッタリな投球動作になります。
正しいトップの位置(ヒマラヤスポーツさんから引用)
出典:https://www.himaraya.co.jp/event/baseballschool/pitching/004
ショートアームのデメリット
また、ショートアームのデメリットとして3つの事が考えられます。
先程はテークバックを小さく取ることのメリットについてお話をしましたが、その分トップの位置が浅くなってしまったり、しっかりとトップが作れないうちに投球動作に入ってしまい、下半身の力が伝わっていない状態で誤魔化したような状態でボールを投げてしまう恐れがあります。その分ボールに勢いが伝わらず、手投げのようにスローイングをしてしまう事が起こり得る事もあります。また、顔の近くにトップの位置を持ってきてしまい、砲丸投げのように押し出して投げて、逆に肩肘に負担がかかってしまうリスクも考えられます。
そのため、一度は大きい動作でのピッチングフォームを固める事は必要となり、小さくまとまり過ぎないという意識は持つべきポイントになり、ショートアームにも従来のピッチングフォームにもメリット、デメリットがある事を理解し、お互いのピッチングフォームの特性を知ったうえで自分に合ったピッチングフォームを身につける事が大切になります。
大谷翔平選手のピッチングフォーム
大谷翔平選手も最近までは従来のピッチングフォームで肩甲骨をフルに活用し、肩肘を背中側に引く事でしなりのあるピッチングフォームをしていましたが、2021年シーズン後半から、ショートアームに近いピッチングフォームに変更されました。
前半戦
13試合 4勝1敗 67回 被安打46 奪三振87 四球35 防御率3.49
後半戦
10試合 5勝1敗 63回 1/3 被安打52 奪三振69 四球9防御率2.84
ご覧の通り、投球成績は後半戦に良い数字を残している事がわかります。中でも四球数は前半戦に投球イニング67回で35四球だったのが、後半戦では63回1/3を投げて9四球と激減しコントロールが大幅に改善されました。また、ストライク率も前半戦は50%を切る試合も度々見られる中、後半戦は常に70%前後を推移するようになり、安定感のあるピッチングを続ける事ができました。
そして、平均球速も特別影響もなくショートアームのようにテークバックを小さくしても、力強いボールを投げ続けられたという事も言えると思います。
2021年シーズン序盤
2021年シーズン終盤
テークバックが小さくなっている
メジャーリーガーコメント
ショートアームに変更した各メジャーリーガー投手もショートアームにする事で簡単にトップが作れて、下半身と上半身のタイミングも合わせるやすいとのコメントを残されています。またバウワー投手はパワーを引き出すために大きいテークバックは不要だという旨のコメントもされています。
メジャーリーグとNPBの傾向
最近のメジャーリーグの傾向として、投手の肩肘は消耗品として捉えており、怪我の防止のため先発ピッチャーを球数100球を目安にリリーフピッチャーと交代し、5.6回程度で降板する事は珍しくありません。日本でもその傾向は強まり、規定投球回数に入るピッチャーも年々少なくなり、リリーフピッチャーへの負担も懸念せれています。そういった傾向がある先発ピッチャーが少しでも長いイニングを投げるため、メジャーリーグでは、ストライクをどんどん取り、有利なカウントを作り、少ない投球数でイニングを稼ぐというスタイルが確立しつつあります。
そのため、怪我のリスクも少なくコントロールが付きやすい、ショートアームはこれからのメジャーリーグ、日本球界でも浸透していく投げ方になっていく事が予想されます。ピッチングスタイルも年々変化しているため、今後また新たに効率的なピッチングフォームが生まれるかもしれませんね。
次回
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