ダルビッシュ投手が実戦で使用 見たことのない軌道の浮き上がるスライダー「ジャイロカッター」を解剖

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ダルビッシュ投手が実戦で使用 見たことのない軌道の浮き上がるスライダー「ジャイロカッター」を解剖、投げ方と実践的データ分析 

 2023年第5回WBCが開催され、日本代表にダルビッシュ有投手が選ばれ、代表合宿にて若手投手に変化球を教えている姿が注目されています。ダルビッシュ投手は変化球の習得にもとても熱心であり、回転数や回転軸、変化量などをデータで分析し、投げ方や握り方を試行錯誤し、常に新しい変化球を求めて探究しています。

本人が得た学びや気づきをWBCの強化合宿では惜しみなくチームメイトに情報提供し、メディアや取材にも自身の技術について、隠す事なくお話しています。この事でダルビッシュ投手がどのような事を取り組んでいるのか、どのような球種があるのか、気軽に知る事ができ、それをもとに自身の技術に取り入れようとする人は多くいらっしゃると思います。

 今回はダルビッシュ投手の浮きあがるスライダーについて触れ、そのルーツ、投げ方や変化量、実践での使い方についてご紹介したいと思います。

浮き上がるスライダーの起源

 ダルビッシュ投手が初めて浮き上がるスライダーを投げたのは、2010年のオールスター戦で、読売ジャイアンツの阿部慎之助選手に2ボールから3球連続で新球を投じ、2球連続空振りの後に左フライに見事封じ込めました。

対戦した阿部は「アンダースローのように浮くボール。ファウルでしのぐのが精いっぱいだった」とコメントを残し、当時の報道ではその球種の事をジャイロカッターと表現しました。

ジャイロカッターの特性と使い方

 ジャイロカッターの変化軌道は阿部選手がコメントしているように、アンダースローの選手が投げるスライダーのような変化で一度浮き上がるような軌道をしており、そのまま横方向に変化します。

アンダースローの投手が投じるボールは下から上へ角度が付くため、下から上へとボールの軌道が通りますが、ダルビッシュ投手はオーバースローであるため、実際にボールは下から上へと浮き上がるという事は起こりません。

 しかし、ジャイロカッターはバッターからすると一見浮き上がるように錯覚する軌道を描き、そのまま横へと変化する類まれに見る特殊な変化球になります。普段見ることのない軌道のため、バッターは目が慣れず、タイミングやスイング軌道がずれ、1打席だけでの修正はとても困難となります。

その事でカウントを有利にして、自身の決め球や直球でバッターを封じ込める用途があると考えられ、早いカウントでの打ち損じやファールでのカウント稼ぎとして使われる事が予想できます。

アンダースローの浮き上がるスライダーとストレートの特性

 実際にアンダースローで活躍した元ロッテマリーンズの渡辺俊介投手はストレートを変化球の感覚で投げているとお話しており、持ち球のシンカーは沈むような変化をしますが、強く投げるためストレートより球速が速く、反対にストレートはスライダー方向とシュート方向に変化を投げ分け、球速を落とし浮き上がらせる軌道で投げているとお話をされていました。

 アンダースローのスライダーやカーブの変化球はボールを浮かせる事をイメージするため、中指でボールの下を切るイメージリリースします。その事で卓球やテニスのカットのような軌道を描き、中々ボールが落ちこず、ボールの下をバットが空を切る空振りがピッチャーからすると理想になります。

その技術をオーバースローやスリークォーターに応用したものがジャイロカッターとなり、アンダースローのように実際にボールが浮き上がる事はありませんが、なるべく下からボールを切る事で、普通のスライダーより、ボールが落ちづらいため、バッターは浮き上がるように錯覚するという事が考えられます。

浮き上がるスライダーの投げ方

 それではオーバースローであるダルビッシュ投手がどのように、ジャイロカッターを投げているのでしょうか。

 実際にダルビッシュ投手は、ボールを四分割した場合、通常のカットボールは、ボールのリリース時に右上に指先の力をかけるますが、ダルビッシュのジャイロカッターの場合は、右下に力をかけており、カットボールやストレートを投げる時以上にボールを長く持ち、リリースの瞬間まで指先がボールから離れないようにしながら、リリースでは右下から左上への斜め回転をかけていくことを意識しています。

 さらにボールを大きく変化させるためには、ボールの裏側にいかに指を回していくのかが大切だとお話もされています。普通のスライダーはボールを切るような感覚があり、横や縦にボールがスライドしますが、ボールを長く持ち下から上へ力を加え、回転を掛ける事でボールが浮き上がるような軌道を描く事ができるのです。

ジャイロカッターの軌道とデータ分析

 これからは、ジャイロカッターが実際にどのように変化をしていて、どのような理屈で変化を起こすのか解説をしたいと思います。

アンダースロー投手のボールの回転と変化

 先ほどお話した通り、渡辺俊介投手はシンカー系の速いストレートとスライダー系、シュート系の浮き上がる遅いストレートを投げ分けていました。

シンカー系の速いストレートは、俗にいうジャイロボールと言われるものとなり、ジャイロ回転はボールに空気抵抗が受けづらいため、減速は少なくなりますが、マグヌス力による揚力を得られないため、重力に引っ張られ、フォークのように沈むボールになります。

アンダースローはフォームの性質上、バックスピンの効いたストレートは投げづらく、逆にジャイロ回転のボールを自然と投げる事ができます。そのため、自然とストレートを投げると必然とジャイロ成分が多くなり、結果的に初速、終速に差がない、スピードのある沈む軌道を描きます。この事から渡辺俊介投手のようなシンカー系の速いストレートはアンダースロー特有のストレートと表現する事ができます。

 それでは、ジャイロカッターや渡辺俊介投手のスライダーはどのような回転のボールなのでしょうか。

ジャイロカッターの軌道と回転方向、回転効率

 先ほど、ジャイロカッターはボールの右下部分に下から長く指を掛けてボールに回転を掛けるとお話をしました。アンダースローのスライダーも同じ要量でボールに回転を掛け、さらに下から腕を出すため、オーバースローより下から回転を掛けやすくなります。ダルビッシュ投手は、オーバースローですが、ジャイロカッターを投げる時は少し肘や腕を下から通すように投げるとお話をされています。このような投げ方はスライダー回転が掛かると共にバックスピンが掛かり、下からマグヌス力が働き揚力を得るため、ボールが落下しづらくなります。

 縦回転のバックスピンで回転数が多いほどマグヌス効果が下から働き、ボールが伸びるという事は現代野球において常識になりつつあります。

 ボールの回転は「True spin」と「Gyro spin」の2種類に分けられますが、
True spinは、実際の変化量・変化方向に関わるスピンのことで、バックスピン、トップスピン、サイドスピンなどがあてはまります。
Gyro spinは回転軸が進行方向を向いているため、ボールの回転が実際の変化方向に影響を与えないスピンのことです。

 先ほどもお話をしましたが、ジャイロ回転はフットボールや銃弾のような回転のため、回転軸が進行方向を向いており空気抵抗が少ないことが特徴です。そのため球速は落ちづらいですが、マグヌス効果のような揚力を得づらくボールが沈みやすくなります。

 ボールの回転の中でTrue sipinの割合が大きい程、回転効率の高いボールと言え、ボールの回転数が変化量・変化方向に対しての影響が大きくなり、綺麗な縦回転のバックスピンはマグヌス効果が下からボールを持ち上げるように働き、ボールが重力に引っ張られることなく、浮き上がる軌道のようなストレートを投げる事ができます。

 このようなボールの性質をホップ成分と呼び、ホップ成分は無回転のボール比べて、何センチ高い位置でホームベース上を通過したかを表します。メジャーリーグでは平均43cm〜44cmで推移し、50cmを超えると優秀とされ、中には60cm以上の数値を残す投手も稀に見られます。このホップ成分が高いほどバットの上を通過する事が増え、空振りが奪いやすいボールになると言えます。

 この事からジャイロカッターは総スピンの中でTrue Spinの割合が高く、サイドスピンとバックスピンを両立した回転をしており、横への変化がある中で、下からのマグヌス力により揚力を得て、従来のスライダーより、ホップ成分の高い球種であると言う事が言えます。この事でバッターは浮き上がったような錯覚を起こし、ボールの下をバットが空を切るという現象が起こるのです。

まとめ

 以上がジャイロカッターの投げ方とボールの特性についての内容でしたが、この内容を知る事で、自身でボールを好きな方向へ変化を起こす事が可能となります。

 Gyro SpinとTrue Spinの性質を理解する事で、ボールを曲げたり、落としたりする事も容易となり、さらに重力に左右されづらい、沈まないボールも投げる事も可能となります。そして、どのような投げ方、握り方をしたら、ボールに思うような回転を掛けられ、想像するような変化するのか試行錯誤する事で、自分の武器となる変化球を取得する事ができます。

 もちろん人によって感覚も異なり、表現する言葉も変わってきます。そのため、様々な情報が飛び交う世の中ですが、その情報を自分の感覚と照らし合わせ、科学的根拠、基礎的知識と技術を大切にして、自分の感覚の中にスキルとして取り入れて頂けたらと思います。

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