昭和野球史④ 野村克也と麻雀 水島新司先生とテンパイたばこ

プロ野球

野村克也と麻雀 相手の癖を読む:水島新司先生とテンパイたばこ

 野村克也さんは江夏豊投手が南海に移籍した際に、よく夜中から朝方まで野球談議に熱中していたというエピソードが語られています。2人は同じマンショの別室に住んでいたため、麻雀をしたり酒を飲んだりと良い関係で過ごしていたみたいですね。

 そんな中、代表作としてあぶさん、ドカベンを書かれた漫画家水島新司先生が麻雀面子としてよく参加していたとの事でした。昔のプロ野球選手において、酒とギャンブルは切っても切れない関係で、一つの嗜みとして楽しんでいた選手も多いと思います。野村克也さんの開催する麻雀には加えて、南海ホークス1塁手としてレギュラーで若手売り出し中であった柏原純一選手や抑え投手として活躍した佐藤道郎投手も野村克也さんとよく麻雀をしていたというエピソードが明かされています。そして時には沙知代夫人も麻雀面子に加わっていたみたいですね。

水島新司先生のテンパイたばこ

 麻雀を楽しく打たれていた野村克也さんと水島新司先生ですが、野村克也さんの著書にて麻雀についてこのようなエピソードを残されています。

あぶさんの聴牌タバコ

少し、別の角度から「クセ」を考えてみたい。麻雀をやると、人それぞれ性格がわかるといいますが、「クセ」もまた、それぞれなのです。

「ドカベン」「あぶさん」など、野球ものの人気漫画家、水島新司さんとはシーズン・オフに何度か卓を囲む、楽しい麻雀仲間です。水島さんほど、愉快な麻雀も珍しい。天真爛漫でズルさがなく、「クセ」もまた、あっけぴろげです。

 大変なヘビースモーカーで、タバコにはいつも火がついている。このタバコで、すぐ水島さんの聴牌(テンパイ)がわかってしまいます。普通のときは、火がついたまま灰皿の上に置きっぱなしです。ところが突然ヒョイと取り上げてスパスパやり出す。これが危険信号です。聴牌か一向聴(イーシャンテン)ぐらいまで近づいている。

「先生、聴牌でしょ」

「ウン、エッ?イヤ、まあ……」

「とぼけても、あきまへん。顔に書いてありますので」

「カマかけたってダメだよ、ノムさん、わしゃ知りません」

ブツブツいいながら、タバコを置いて顔をごしごしやる、という具合で、いつの間にかツモ切りです。ところが、もっと危険なときがある。灰皿のタバコを無視して、新しいのをくわえて火をつけるときです。こういうときは、面前清一(メンゼンチンイチ)か、役満貫の聴牌近しです。

出典:ワニ文庫 著者野村克也 「敵は我に在り〈新装版〉上巻」P71~72 2008.3.5初版発行

 麻雀でよく癖として表れるテンパイたばこですが、水島新司先生は良い手になったり、テンパイになるとつい態度が露骨に表れるタイプだったみたいです。当時水島新司先生はビックコミックオリジナルにて南海ホークスを舞台にしたあぶさんを連載していましたので、漫画のネタとなる情報や南海球団や選手たちの近況を漫画中にも得たことがあったのではないでしょうか。

阪急ベンチにサインを読まれ麻雀用語でサイン伝達をする南海バッテリー

出典:小学館あぶさん12巻 ほら上戸より

 また、あぶさんの作中では秋季キャンプにて主人公あぶさんがホテルにて麻雀の中でも非常に難しい上がり役の九蓮宝燈(チューレンポウトウ)で上がったり、野村克也さん宅で江夏豊投手と徹夜麻雀をして大胆麻雀を打つあぶさんに野村克也監督が呆れるというシーンも描かれています。作中ではあぶさんが麻雀を打っていますが、現実では水島新司先生が麻雀面子の一員として野村克也さんと親密な付き合いをされていたということになりますね

あぶさん11巻より 徹夜麻雀明けのシーン

メンツが一人登場してませんので、もう一人は水島先生本人なのかも知れませんね。

出典:小学館 あぶさん11巻 にごり酒より

 ちなみにあの有名な「江夏の21球」の試合である広島と近鉄の1979年日本シリーズ第7戦の前日に江夏豊投手は雨のため中止を見込んで、自宅に来訪された水島新司先生と徹夜麻雀をされていたエピソードも明かされています。プロ野球の歴史に残る試合の裏側でも水島新司先生はこのような形でかかわっていらっしゃたとの事でまさに昭和のパリーグ野球の生き証人的な存在だったと思います。このような経験から昭和のパ・リーグの教科書のと言われるように非常に濃い内容でリアリティのある漫画を長年書き続けてくれました。

偉大なる水島新司先生

 そんな水島新司先生でしたが、2022年1月10日に肺炎にて惜しくも亡くなられてしまいました。

 他にも「ドカベン」や「野球狂の詩」「男どあほう甲子園」など様々な名作を世に放たられました。私も水島新司先生のファンとして、様々な作品に触れさせていただき昔のプロ野球について詳しくなれました。

 私も一度水島新司先生の生まれ故郷の新潟市に行った時があります。その際は古川にある山田太郎やあぶさん、岩田鉄五郎などの銅像を見に行き、万代橋や街中を散策させてもらいました。あぶさんの生まれ故郷も新潟県新潟市ということで、よく万代橋の冬景色が作中で描かれています。新潟を舞台にした話では、新潟の鳥屋球場での対西武戦、森繁和投手からその試合初打席にて、開幕戦の4打席連続ホームランから跨いでの新記録となる5打席連続ホームランを放ちました。しかし、その試合は結局雨天中止となり記録も幻となってしまいました。そのお話では幻の名酒と言われる新潟産のお酒越乃寒梅も登場しました。

出典:小学館:あぶさん 17巻表紙

 また、あぶさんは過去の名投手との対戦シーンも見どころの一つで西武東尾修投手、ロッテ村田兆治投手、阪急山田久志投手など様々な名シーンがリアルタイムで描かれており、時を越えて今見ても当時の雰囲気を味わえてとても面白いものがあります。

 そんな水島新司先生の作品は野球愛で溢れ、いろんな角度から様々なキャラクターで野球を描かれています。また、当時は侍ジャイアンツや巨人の星など、あまり魔球や特訓などといったあまり現実的ではない作品が多い時代で技巧派アンダースローがチームのエースであったり、代打稼業をテーマにして作品を描かれたたりと当時ではあまりないリアリティのある漫画の先駆けとなった作品をたくさん描かれてきました。そんな水島新司先生の作品にぜひ皆さんも触れてみていただき、野球というものを漫画というコンテンツとして楽しんで貰えたらと思います。とても惜しい人を亡くしてしまいましたが、残された作品は水島先生の心と共に、プロ野球選手とファンの心と記憶として残り続けていくものだと思います。

おまけ

 ちなみにこれは私のエピソードですが、過去にプロ野球の創成期の名選手スタルヒン投手のお墓がある秋田県雄勝町に訪れた時があります。スタルヒン投手の義理の弟さんともお話をさせていただくという貴重な体験をさせてもらいました。その日の夜に仲間と私も麻雀を打ちましたが、なんと国士無双という役満を上がることができました(笑)たまたまの結果なのかもしれませんが、野球と麻雀には濃い関係があるなと私自身勝手に解釈したその日の夜でした。

スタルヒンのお墓 現地撮影

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